脳と失敗と子どもの「正しい」ほめ方

こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

先日このブログで失敗の重要性について書いたのですが、それを読んだ友人が、アメリカで最近発表になった「失敗に関する研究」について教えてくれました。失敗と脳の関係に関する、とてもおもしろい研究です(私はこれを読んで、脳科学者の茂木健一郎さんが「日本に元気がないのは失敗が許されないからだ」とおっしゃっていたことを思い出しました)。

今日はこのアメリカ発の研究内容と、その研究内容と結びついている「子どものほめ方」について書きたいと思います。

まずは、失敗と脳の関係についてです。

人間は失敗をおかすと、その直後に脳内で2つの反応が起こるのだそうです。第一の反応はネガティブな反応。ミシガン州立大学の研究報告によると、この反応は失敗のo.05秒後に起こるとか。

ところが、失敗後0.1-0.5秒経つと、今度は脳内にポジティブな反応が起きるそうです。何がいけなかったのか、などと失敗に注意をはらいだした時にこの反応が起きると言われています。

このポジティブな反応の出方は人によって様々ですが、原則、「人間、努力したってたいして成長できないよ」と思っている人よりも「がんばればもっと成長できる」と信じている人の方が圧倒的に「脳内ポジティブ反応」を多く出すのだそうです。

まずは強い脳内ネガティブ反応を出し、続けて、一貫性のある脳内ポジティブ反応を多く出す人の方が、次から間違いをおかしづらくなる、ということもわかっているようです。私は脳科学のことはよくわかりませんが、この報告を読む限り、どんどん失敗して「どうして間違えちゃったのかな」と建設的に考えることが成長の第一歩だ、ということが脳科学からもわかるということだと思います。

そして、この失敗後の「脳内ポジティブ反応」は、今日の第2のテーマ、「子どもの正しいほめ方」につながっていきます。

こちらは、スタンフォード大・心理学教授の Carol Dweck 氏らの研究が明らかにしたことですが、子どもが何か問題を解いた時に「頭いいのね」(You must be smart.)とほめられた場合と、「がんばったのね」(You must have worked hard.)とほめられた場合とでは、その後の伸び方がまるで変わってくる、というのです。

「頭いいのね」と言われた子どもは、これからも「頭がいい」とまわりから思われたいという気持ちが強くなるため、難しい問題にあまりチャレンジしなくなるそうです。間違えることによって「本当は頭よくないんだ」と思われたくないからですね。間違えることのない「安全ゾーン」にい続けようとするわけですから、学ぶことも当然少なくなります。

一方、「がんばったのね」と言われた子どもは、「がんばった」こと自体をほめられたという認識があるので、色々なことにチャレンジするようになるのだそうです。そういう子どもは当然、失敗から学ぶ率も高いようです。一方、頭の良さをほめられた子どもは、一度失敗すると「失敗したのは頭が悪いからだ」と思ってそれ以上学ぼうとしない、というのです。

おもしろいことに、頭の良さをほめられることに慣れている子どもは、「人間、努力したってたいして成長できないよ」と思う傾向があり、一方で、がんばったことを評価されている子どもには、「がんばればもっと成長できる」と信じるタイプ—つまり、失敗した後の脳内の「ポジティブ反応」がたくさん出るタイプ(失敗についてきちんと吟味するタイプ)—が多いのだそうです。

研究報告がすべて、だとは思いませんが、ちょっと考えさせられてしまいますね。

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11月20日の小学生向けプログラムのご報告

<お知らせ>
セミナー「今、子どもに必要なのは英語とクリティカル・シンキング」をさせていただくことが決定しました(2012年1月)。お父さん、お母さんだけでなく、教育関係者、子どもの教育にご興味のある方、どなたでも歓迎です。託児サービス付き。詳しくは、こちらをご覧下さい。

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こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

昨日、小学低学年を対象としたクリティカル・シンキング・プログラム(於:東京プリンスホテル、16:30-17:20、IWCJ財団主催)を行ないました。集まってくれたのは、私とは初対面の、22人の子どもたち。何が始まるのかなぁ、と最初は皆、ちょっと不安そうな感じでした。

プログラムはまず、「4つの約束(①とにかく一生懸命考える、②どんな答えも「正解」だから恥ずかしがらずに発表する、③他人の答えを尊重する、④わからないことがあったらいつでも質問する)」からスタート。

この4つの約束は、critical thinking を始める時に必ず子どもたちとすることにしています。なぜかというと、critical thinking においては特に、正解を追い求めることよりも自分の頭で一生懸命考えることが大事であること、一生懸命考えた答えだからこそ自信をもって発言してほしいこと、そして、他の人も同じように一生懸命考えた上で答えているのだから、他の人の意見はちゃんと聞く、ということを子どもに徹底してほしいからです。

約束をとりつけて、実際のレッスンが始まりました。最初のアクティビティは「名前、自分の好きなもの、なぜ好きなのかという理由」だけを言ってもらう、自己紹介。好きなものの理由を考えることによって、critical thinking の大原則である「なぜ?」という質問に馴染んでもらうためです。

日本では、小学生ぐらいになると「なぜ?」と問うことも問われることも比較的少なくなると思います。そのせいもあるのか、子どもたちは最初は「好きなものの理由なんて、わかんなーい」と言っていたのですが、5分ほどうんうん悩むと、きちんと理由を説明してくれました。

「読書が好き。知らないことを知れるから」「ピザが好き。チーズがトロトロ〜っとしてる!」「ダンスが好き。お父さんがダンスが好きだから」「バレーボールが好き。難しいことにチャレンジしている感じが好き」。実に様々です。

次のアクティビティは、色々な質問に対して、サイコロの目の数の分だけ答えを言ってもらう、というもの。ひとつの問いに複数の答えがあり得るということを体得することによって、色々な選択肢を模索するというcritical thinking の素地を作るためです。

まず「どうして水は大切なの?」と質問すると、「人間が生きていく上で大事」「魚も水がなかったら困る」「全ての生物は水から出来ている」などの答えが出てきました。知識や経験を元に理由を考えていることがわかりますね。

「あなたにいつもついてくるものは何?」という質問には「影」「空気」という答えもあれば「体」という声も出ました。「『あなた』は体の一部じゃないの?」と私が尋ねると、「うん、違う」。なるほど、これは「あなた」の定義の問題ですね。「ついてくる」の解釈が「後をつけてくる」ではなく「くっついている」であれば、「体」という答えもあり得るわけですし。色々な考え方があるんだ、ということを肌で感じてもらえたかな、と願いつつ、次のアクティビティに移ろうとすると…

「もっとやりたい〜」との声。最初は「6の目が出たらどうしよう、そんなに答え考えられないよ」と心配していた子どもたちでしたが、実際にやってみたら、10個ぐらいの答えがあっという間に出てきました。あまりにたくさんの答えが出るので、「サイコロの目の数の分だけ…って言う意味がないね」という指摘が出るほど。次回は、サイコロの目にそれぞれ「10」とか「20」とか書いておこうかしら。

さて、最初にしてもらった「4つの約束」には「わからなかったら質問する」があったのですが、レッスンの前半、あまり質問が出なかったので「わからない、っていうことはかっこいいことなんだよ」と説明すると「え〜っ!!!」という声。なんでかっこいいんだと思う?と聞いてみると、すぐにいくつもの手が挙がりました。子どもたちが「なぜ?」という質問にすんなりと反応できるようになってきたことを感じた瞬間です。子どもたちの答えは「勇気があるっていうことだから」「素直に言うからかっこいい」「自分の気持ちを友だちに伝えることはいいこと」など。(ちなみに私の答えは「わからないと思っていても口には出せない人がいるかもしれない。そういう人を助けることができるかもしれないから」)。

あっという間に過ぎた45分。最後のアクティビティは、「事実」と「意見」を分ける、というものでしたが、この両者を識別できることが、critical thinking ではとても重要なんです。「プールで泳ぐよりも海で泳ぐ方が楽しい」「ミッキーマウスは人気者だ」「今朝の天気予報で『雨になるでしょう』と言っていた」などの文を聞いて、どれが事実でどれが意見か判別するのですが、これはかなり苦戦していたようです(皆さん、どれがどれだかわかりますか)。参観なさっていた保護者の方が後で「意見と事実、あれは難しいですね」とおっしゃっていたこともあり、次からは、このアクティビティだけは保護者の方も一緒に参加していただこうか、と考えています。

プログラムが終わって家に帰るまでの道すがら、そして夕食の間も「事実と意見」のクイズを親子で楽しんで下さったご家庭があった、という報告を後から聞きました。このようなご報告を聞くと、本当に嬉しいです。考えるって楽しい、ということをもっと伝えていきたいと思います。一方で、中には一生懸命考えても、それを口に出せない子どももいるので、そういう子どものために、答えを表現できる、発言以外の方法も考えてみようと思っています。

参加してくれた子どもたち、そして保護者の皆様、どうもありがとうございました。子どもたちの一生懸命考える姿は、本当に感動的でしたよ。

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