こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。
今日のテーマは、クリエイティビティをいかに身につけるか、です。
「ことの是非を見きわめてより良い選択肢を模索する」ための critical thinking には大きく分けて、論理性とクリエイティビティという2つの側面があると思います。論理性がなければ、他の人の意見や情報の是非が見きわめられませんし、一方で、クリエイティビティがなければ、「より良い選択肢」に制限が生じてしまいます。というのは、より良い選択肢に到達するためには、想像力(クリエイティビティの素)を働かして、様々なアイディアや選択肢を考えてみる必要があるからです。
大前研一氏も著書 The Mind of the Strategist で “Creativity cannot be taught, but it can be learned.”(クリエイティビティは教わるものではないが、自分で努力して身につけることはできる)と書いていますが、その通りだと思います。
クリエイティビティを身につけるためには色々な方法があると思いますが、ひとつのやり方は、通常の考え方という「枠」から飛び出す訓練を行なうことではないか、と思っています。なるべく「非通常な」あるいは「自分が普段しないような」考え方の訓練をすることによって、想像力を(健全な意味で)たくましくするのです。(以前ご紹介した、「男女のけんかのシナリオ」を自分とは違う性別の立場から書いてみる、というのもひとつの方法ですね。)
そこでご紹介したいのが、マリリン・バーンズ著の「考える練習をしよう」です(原書は The Book of Think というものですが、日本では入手が少々困難なようです)。「非通常な」考え方をうながしてくれるおもしろい練習問題が満載で、そもそもは子ども向けに書かれたものですが、大人が読んでも目からウロコが落ちることが少なからずあると思います。
たとえば、「きみの手のひらには、五枚の小さな紙きれがある。きみはこの紙きれをぜんぶ吹きとばさなくちゃいけない。それも、一つずつ。どうやったらいいかな?」という問題。すぐ下には、手のひらの上に5ミリ四方ぐらいの紙きれが5つ乗せられている絵がかいてあります。
さあ、皆さんならどうしますか?1つ1つなんてとても無理!と思った人は…もうちょっとねばってみて下さい。
…ねばって、ねばって…
それでは、答えです。「一枚を吹きとばしているあいだ、四枚は手の中でにぎっていればいいんだ。次には三枚をにぎる。そしてまた、吹きとばす。こうして次々と吹きとばすんだ。」
もしかしたら、他の方法(たとえば細いストローなどを使って一枚一枚吹き飛ばす)などの答えを思いついた方もあるかもしれませんね。
ここで注意しなければいけないのは、「手のひらに乗っている、五枚の小さな紙きれを一つずつ全部吹きとばして下さい」と言われた時に、私たちがごく当たりまえのように読み取ってしまう(ありもしない)「行間」です。言いかえれば、本当はありもしないのに、自分で掘ってしまう「落とし穴」、つまり思い込みですね。上のような問題の場合、開かれた状態の手の絵を見せられてしまうと、(言われてもいないのに)「手は開いたままの状態にしておかなければいけないんだ」と思いがちですし、「道具を使ってもいいですよ」と言われないと「道具は使ってはいけないんだ」と思い込んでしまうことが少なくないと思います。
そして、さらに注意したいことは…私が3段落前に書いた「答え」が唯一の答えだ、と思わないようにすることです。私たちは、誰かから(特に権威的な立場の人から)「正解」めいたことを言われると、「そうか、そうだったんだ」と納得してしまい、考えることをやめてしまう傾向があると思います。でも、答えを出されても「本当に解決策はそれだけなのかな?」と疑ってみることが、critical thinking では非常に重要なポイントなのです。
先ほどの問題の解決方法に話を戻しますと、たとえば、もう片方の手の指を使って、吹きとばしたくない紙きれをおさえておく、という方法もありますよね。他にも色々な方法があるはずなんですよ。
自分が普段どういう思い込みに陥る傾向があるのか、把握しておくことも重要だと思います。私の場合、思い込みが普通の人よりも多いように思えてしょうがないのですが…