月別アーカイブ: 2011年10月

幼稚園・保育園生のための、critical thinking導入編

こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

「3-4歳の子どもには critical thinking を教えてくれないんですか」と聞かれることが増えました。ご興味を持って下さった皆さま、本当にありがとうございます。原則、critical thinking は言葉を使う作業なので、言葉によるコミュニケーションがある程度完成している小学生以上が対象なんです、とお答えしています。けれども最近、critical thiking の「基礎の基礎」として、3-4歳の子どもに教えられることもあるのではないか、と思い始めました。

そこで、我が息子(もうすぐ4歳)を相手にちょっとした試みを始めました。まだ始めたばかりですので、これが果たして「レッスン」としていずれ確立できるかどうかはわからないのですが、今日は、経過報告、ということでお話をさせて下さい。

critical thinking と言うぐらいですから、とにかくキモは「考える」ことです。それも、自分の頭で。だから、こちらが正解を決めてしまうのは基本的にはNGです。一方で、幼稚園の年少さんぐらいだとまだ理屈があまり理解できないので、「なんでも正解」としてしまうと、とんでもなくシュールなやり取りがかわされる可能性もあります(それはそれで楽しいんですけれど)。

以下、保護者の方が日々実践できそうな「critical thinking の素」をリストアップしてみました。

なんでも理由を尋ねてみる  「○○がすきなの〜」「○○したい〜」と来たら、「なんで?」とすかさず聞きます。うちの子の場合は、「どうして電車が好きなの?」などと尋ねると「ウンチだから!!」とすさまじい応答をすることもありましたが、へこたれてはいけません。とにかく、「なんで?」と聞き続けて、理由を考えるクセをつけてあげて下さい(なぜなら、理由を考えることは、critical thinking の基本中の基本だからです)

「なんで○○なの?」と聞いてきたら、「なんでだと思う?」と聞き返す  考えることのけっこういい訓練になります。親が即答できない「なんで」質問も、「なんでだろうね、どう思う?」と一緒に考えてみると、思いがけない発想に巡り会えたりしますよ。

子どもに何か説明をする時は、必ず「理由」を添える  大人がいつも理由を添えて説明してあげれば、子どもは感覚的に「理由を言うのが当たりまえ」と思うようになります(ただし、やり過ぎに注意した方がいいかもしれません。おそろしく理屈っぽい子どもができあがる可能性もアリ)。

以上3つは、私が小学生の娘相手にかつて行なっていたことです。

そして、つい最近始めたのが次の項目です。

質問をどんどん掘り下げて、考えを発展させてやる  息子が今朝、ベビーカーを押している女性を見て、「ベビーカーもバスに乗れるんだよ」と言ってきたので、「じゃあ、ベビーカーを持っている人は、バスのどこに乗るでしょうか」と質問してみました。私は、バスの中にある、ベビーカー専用の「優先席」のことを想定してこう聞いたのですが、息子の答えは「バスの中」。たしかに、バスの上や下には乗れないですね。そこで、「お、いいねぇ。じゃあ、ベビーカーを持ってる人は、バスの中のどこにすわるの?」と尋ねると「イス」。また納得。床や階段の上には普通、すわりませんよね。「うまい、うまい。どこのイス?前?うしろ?真ん中?」「真ん中」(ベビーカー用の席は通常バスの中央部にあります)。

ここで大事なのは、子どもがどんな答えを言ってきても、肯定してあげることだと思っています。肯定しつつ、話を先に進めて、さらに細かく考えさせてやると同時に、考える「道すじ」のようなものを大人が示してあげることが重要なのではないか、と思います。

また、子どもを叱るときに「視点の転換」に注意を向けさせることも大事かと思っています。たとえば、息子がお姉ちゃんのことをぶったら、「自分もぶたれたらいやでしょ?」ではなく、「ぶたれたお姉ちゃんは、どう思ってるかな」と、相手の立場に立って考えさせるということです。まだ小さいので、こちらの思惑通りの反応は返ってきませんが、いずれ、視点を変えることが感覚的に身につくのでは…と淡い希望を抱いています。

さて、どうなりますか。後日ご報告できるような進展があるといいのですが。

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「赤いぼうし」

こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

先日、友人が「子どもと一緒に考えるにはうってつけ」と言って「赤いぼうし」(野崎昭弘・著、安野光雅・絵)という本を紹介してくれました。

この本は、数学者の野崎氏が消去法という概念をていねいに子ども向けに教えてくれる、画期的な作品です。消去法だけでなく、思い込みのこわさや文章をじっくり読むことの大切さ、そして、視点を変えることの大事さをわずか41ページ(その半分は安野氏の美しいイラスト)で見事に教えてくれます。

内容は、赤または白の帽子をかぶせられた人が、まわりの人の帽子の色を見ながら自分の帽子の色を推論していく、というものなのですが、ページを追うごとに設定がどんどん複雑になっていきます。子どものみならず大人も真剣に考えてしまう内容で、読んでいる最中は思わず「ちょっと今話しかけないで、考えてるんだから」とムキになってしまうほどです。

私がいちばんムキになってしまった問題をご紹介しますね:

赤い帽子を3つ、白い帽子を2つ持ってきて、3人(AさんBさんCさんとします)の頭にひとつずつ乗せました。他の人の帽子の色は見えますが、自分の帽子の色は見えません。この問題の書いてあるページの反対側には、AさんとBさんがそれぞれ赤い帽子をかぶっている絵があります。まず、Aさんに「あなたの帽子は何色ですか」と尋ねると「わかりません」という答えが返ってきました。次に、Bさんに「あなたの帽子の色は?」と聞くと「わかりました。赤です」と答えました。そこで、問題。Cさんの帽子の色は?

実は、この問題には「落とし穴」がたくさんあるのですが、その落とし穴が非常にうまく隠してあります。答えは明らかにされませんが、本書の末尾にある「解説」を読むと、絵(落とし穴)につられてはいけないこと、落とし穴あるいは思い込みにとらわれないために文章はじっくり読まなければいけないこと、がよくわかります(答えはわかりましたか?)。

また、AさんやBさん、あるいはCさんの立場に立って考えてみることも重要です。Aさんはなぜ「わかりません」と言ったのか、なぜBさんは「わかりました」と言えたのか。

著者は解説でこう書いています。「『もし…』と考えて初めて、本当によくわかってくることもあります。『もし私がお母さんだったら…』とか、『もし私がこの子の立場だったら…』と考えてみると、それまで気がつかなかったいろいろなことが見えてくるものです。それが思いやりへの第一歩です」

このブログでも何度か書きましたが、立場や視点を変えて物事を考えることは、とても大事です。視点を変えれば見え方が変わります。見え方が変わると、全体像も把握しやすくなります。それが、自分とは別の立場にいる人のことを理解する「助け」にもなっていくんですね。

そんな大事なことを40ページほどで子どもにさらっと教えてしまう「赤いぼうし」には、まさに「脱帽」(あ、すみません)。紹介してくれた友人に、本当に感謝しています。

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