月別アーカイブ: 2011年10月

子どもとcritical thinking:自分だけの思考法を探す

こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

critical thinkingの大事な要素のひとつに「なるべくたくさんの選択肢を出す」ということがあります。より良い選択肢を模索することが critical thinking の目指すところですから、検討すべき選択肢はなるべくたくさんあった方がいいんですね。

先日、小学校低学年の子どもに「答え(選択肢)をなるべくたくさん考える」アクティビティをしてもらいました。「どうして水は大切なの?」「夏にはできるけど、冬にはできないものは?」などの質問に、考えうる限りの答えを出してもらう、というものです。どんな答えでもそれなりの理由さえあれば「正解」なので、答えは無数にあります。

「人生においてせいぜい1回か2回しかできないことは?」という質問に対するある男の子の答えは、「大きな地震が来る」でした。なんとも胸ふさがれる思いがしましたが、一方で、彼がこの答えに至った思考プロセスはとても興味深いと感じました。

子どもはよく、自分の頭の中に浮かんだことをその都度口に出して言いますが、この男の子もそうでした。だからこそ彼の思考プロセスがわかったのですが、要するに、彼の頭の中はこうなっていたらしいんです:ボクの今までの人生で大きな地震が1回あった→ボクはおそらく100歳ぐらいまで生きる→ボクが90歳ぐらいになったら、もう1回大きな地震が来るかもしれない→だから、人生で1回あるいは2回、大きな地震を経験すると言えるのではないか。

この男の子、最初は「人生においてせいぜい2回しかできない」という概念があまりピンと来ていなかったのです。大人なら、「人生においてせいぜい2回しかできないことは何か」と問われるとおそらく、「めったにできないことや、チャンスが2回ぐらいしかないことは何か」というところから考え始めると思います。ところが彼の場合は、「せいぜい2回」という概念を自分なりに咀嚼するところから始めて、自分の人生は何年あるのか、そして、今、自分はその人生においてどの地点に立っているのか、というところから考えたわけです(ちなみにこの男の子、critical thinkingのレッスンを始めてまだ間もないのですが、保護者の方曰く、初回のレッスン以来、色々なことを考えておしゃべりするようになったそうです。)

自分だけの思考法をこのように模索することが、critical thinking の「旨味」でもあります。子どもが自分の頭の中に思考の道すじを切り開いていく様子は、見ていて感動的なものがありますよ。

ちなみに、critical thinkingを数年やっている小学生の女の子にも同じ質問をしてみました。彼女の答えでおもしろかったのは「お母さんになること」。「普通、お母さんになったらそのまま一生お母さんのままでしょ?人生でせいぜい2回、とは言えないんじゃないの?」とツッコミを入れたところ、答えて曰く、「離婚してまた結婚したら、他の子どものお母さんに急になるかもしれないでしょ、だから『せいぜい2回』なの」。

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日本人にもっと、描写力を

こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

今日は、描写力のトレーニングをご紹介したいと思います。

描写力は、日本の学校教育ではあまり教えてくれないようですが、非常に大事なスキルです。たとえば、忘れ物を問い合わせるときにも必要ですし、プレゼンをする場合にも活躍します。さらに言うと、西洋人は子どもの頃から学校で描写訓練を受けているので、彼らと同じ土俵で話をするためには、我々も描写力をつけておかねばならない、ということもあります。TOEFLに描写問題がよく出題されるのも、当たりまえ、なんですね。

以下のトレーニングは私が critical thinking のレッスンで時々行なうものですが、子ども同士でも大人同士でも親子でも、二人一組であれば誰とでもできます。おじいちゃんと孫、という組み合わせも楽しいと思います。また、英語力をアップさせたいという人は、英語で行なってみてもいいですね。

まず、準備するもの(2人分):

  • 紙4枚(裏紙でも画用紙でもなんでもOK。ただし、無地の方がベター)
  • 5色の色鉛筆(クレヨン/サインペンなど、5色を使い分けられれば何でも可)

そして、手順です:

わかりやすくするために、AさんとBさんがトレーニングを行なう、ということにします。

  1. Aさんは5色の色鉛筆(など)を使って、紙一枚の上に自由に絵を描きます。制限時間3分(これ以上長くすると絵が複雑になり過ぎる可能性があります)。
  2. BさんはAさんの絵を絶対に見てはいけません。Aさんが絵を描いている間、Bさんは目隠しをするか、Aさんの絵が絶対に見えない場所に移動します。
  3. 3分経ったら、Aさんは(Bさんに自分の絵を見られないよう工夫しながら)口頭で自分の描いた絵を描写し、Bさんはその描写説明通りに絵を描きます。目標は、自分(Aさん)の描いた絵となるべく同じものを相手(Bさん)に描かせることです。どのような順序でどう描写すれば自分の絵をうまく再現してもらえるか、考えてやってみて下さい。
  4. 役割を逆にします。1-3までのプロセスを逆の立場で行ないます。

終わったら、お互いの絵を見せ合います—この瞬間がけっこうワクワクしておもしろいんです。けっこう似通っている絵もあれば、全然違う絵ができ上がることもあるんですね。どの説明がわかりやすいと感じたか、どこが説明しづらかったか、などお互いに「講評」を述べ合うと描写力の問題点がおのずと浮き上がってきます。描写する側・される側の両方の立場を経験するからこそ見えてくるものもあります。

ところで、描写には一定のルールがあります。大原則は、全体像→細かい点、という手順です。たとえば、紙いっぱいに大きな家の絵を描いたのに、いきなり「ドアは緑色」とか「窓がふたつあって」などと言っても、相手には何のことだかわかりません。まずは「紙いっぱいに大きな家があります」とし、それから、家はどんな形をしているのか、何階建てなのか、色は、窓は、ドアは…とどんどん細かい描写に移っていきます。

また、細かい点を描写する際には、あっちの位置を説明したり、こっちの位置を説明したり、と言う具合に、話があちらこちらに飛ぶのはNGです。「右端にドアがあって、上の方に植木鉢があって、左には花、上に窓があって」などと言ってしまうと、描き手の視点があちこちに飛んでしまい、わかりづらくなります。まずは、たとえば、紙の左側→右側に描写していく、と自分で方向性を決めることが大事です。そして、一貫して自分で決めた方向にそって、スキャナーでスキャンするがごとく、自分の絵をなめるように描写していけばいいのです。

先日、この描写力アクティビティを親子の critical thinking レッスンで行ないましたが、見ていてとても楽しそうでした(当事者お二人はけっこうたいへんだったのかもしれません)。ビジュアルなものに囲まれている現代だからこそ、言葉だけで説明することの大切さを実感できる機会にもなると思います。

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