月別アーカイブ: 2011年11月

11月20日の小学生向けプログラムのご報告

<お知らせ>
セミナー「今、子どもに必要なのは英語とクリティカル・シンキング」をさせていただくことが決定しました(2012年1月)。お父さん、お母さんだけでなく、教育関係者、子どもの教育にご興味のある方、どなたでも歓迎です。託児サービス付き。詳しくは、こちらをご覧下さい。

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こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

昨日、小学低学年を対象としたクリティカル・シンキング・プログラム(於:東京プリンスホテル、16:30-17:20、IWCJ財団主催)を行ないました。集まってくれたのは、私とは初対面の、22人の子どもたち。何が始まるのかなぁ、と最初は皆、ちょっと不安そうな感じでした。

プログラムはまず、「4つの約束(①とにかく一生懸命考える、②どんな答えも「正解」だから恥ずかしがらずに発表する、③他人の答えを尊重する、④わからないことがあったらいつでも質問する)」からスタート。

この4つの約束は、critical thinking を始める時に必ず子どもたちとすることにしています。なぜかというと、critical thinking においては特に、正解を追い求めることよりも自分の頭で一生懸命考えることが大事であること、一生懸命考えた答えだからこそ自信をもって発言してほしいこと、そして、他の人も同じように一生懸命考えた上で答えているのだから、他の人の意見はちゃんと聞く、ということを子どもに徹底してほしいからです。

約束をとりつけて、実際のレッスンが始まりました。最初のアクティビティは「名前、自分の好きなもの、なぜ好きなのかという理由」だけを言ってもらう、自己紹介。好きなものの理由を考えることによって、critical thinking の大原則である「なぜ?」という質問に馴染んでもらうためです。

日本では、小学生ぐらいになると「なぜ?」と問うことも問われることも比較的少なくなると思います。そのせいもあるのか、子どもたちは最初は「好きなものの理由なんて、わかんなーい」と言っていたのですが、5分ほどうんうん悩むと、きちんと理由を説明してくれました。

「読書が好き。知らないことを知れるから」「ピザが好き。チーズがトロトロ〜っとしてる!」「ダンスが好き。お父さんがダンスが好きだから」「バレーボールが好き。難しいことにチャレンジしている感じが好き」。実に様々です。

次のアクティビティは、色々な質問に対して、サイコロの目の数の分だけ答えを言ってもらう、というもの。ひとつの問いに複数の答えがあり得るということを体得することによって、色々な選択肢を模索するというcritical thinking の素地を作るためです。

まず「どうして水は大切なの?」と質問すると、「人間が生きていく上で大事」「魚も水がなかったら困る」「全ての生物は水から出来ている」などの答えが出てきました。知識や経験を元に理由を考えていることがわかりますね。

「あなたにいつもついてくるものは何?」という質問には「影」「空気」という答えもあれば「体」という声も出ました。「『あなた』は体の一部じゃないの?」と私が尋ねると、「うん、違う」。なるほど、これは「あなた」の定義の問題ですね。「ついてくる」の解釈が「後をつけてくる」ではなく「くっついている」であれば、「体」という答えもあり得るわけですし。色々な考え方があるんだ、ということを肌で感じてもらえたかな、と願いつつ、次のアクティビティに移ろうとすると…

「もっとやりたい〜」との声。最初は「6の目が出たらどうしよう、そんなに答え考えられないよ」と心配していた子どもたちでしたが、実際にやってみたら、10個ぐらいの答えがあっという間に出てきました。あまりにたくさんの答えが出るので、「サイコロの目の数の分だけ…って言う意味がないね」という指摘が出るほど。次回は、サイコロの目にそれぞれ「10」とか「20」とか書いておこうかしら。

さて、最初にしてもらった「4つの約束」には「わからなかったら質問する」があったのですが、レッスンの前半、あまり質問が出なかったので「わからない、っていうことはかっこいいことなんだよ」と説明すると「え〜っ!!!」という声。なんでかっこいいんだと思う?と聞いてみると、すぐにいくつもの手が挙がりました。子どもたちが「なぜ?」という質問にすんなりと反応できるようになってきたことを感じた瞬間です。子どもたちの答えは「勇気があるっていうことだから」「素直に言うからかっこいい」「自分の気持ちを友だちに伝えることはいいこと」など。(ちなみに私の答えは「わからないと思っていても口には出せない人がいるかもしれない。そういう人を助けることができるかもしれないから」)。

あっという間に過ぎた45分。最後のアクティビティは、「事実」と「意見」を分ける、というものでしたが、この両者を識別できることが、critical thinking ではとても重要なんです。「プールで泳ぐよりも海で泳ぐ方が楽しい」「ミッキーマウスは人気者だ」「今朝の天気予報で『雨になるでしょう』と言っていた」などの文を聞いて、どれが事実でどれが意見か判別するのですが、これはかなり苦戦していたようです(皆さん、どれがどれだかわかりますか)。参観なさっていた保護者の方が後で「意見と事実、あれは難しいですね」とおっしゃっていたこともあり、次からは、このアクティビティだけは保護者の方も一緒に参加していただこうか、と考えています。

プログラムが終わって家に帰るまでの道すがら、そして夕食の間も「事実と意見」のクイズを親子で楽しんで下さったご家庭があった、という報告を後から聞きました。このようなご報告を聞くと、本当に嬉しいです。考えるって楽しい、ということをもっと伝えていきたいと思います。一方で、中には一生懸命考えても、それを口に出せない子どももいるので、そういう子どものために、答えを表現できる、発言以外の方法も考えてみようと思っています。

参加してくれた子どもたち、そして保護者の皆様、どうもありがとうございました。子どもたちの一生懸命考える姿は、本当に感動的でしたよ。

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「知られざる基本英単語のルール」知られざる舞台裏

こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

いつもは critical thinking について書いていますが、今日は、この夏に出させていただいた、日向清人さんとの共著「知られざる基本英単語のルール」が増刷決定になったことを記念して(手前味噌ですみません)、この本の舞台裏と、英語の話を書かせて下さい。

そもそも私は英語教師としてのキャリアの方が「critical thinking 教師」のキャリアより若干長く、大学における critical thinking の授業も選択授業の「英語」として教えています。

「知られざる基本英単語のルール」は、英語教育者たちからの信頼も厚い General Service List(汎用性の高い単語のリスト、以下GSL)にある全2,000単語をしっかり習得してもらいたい、という願いから生まれました。GSL上の基本2,000単語をマスターすれば、書き言葉の8割、話し言葉の9割がまかなえることがわかっています。

なぜ今さら基本単語か、と言いますと、日本には、基本レベルの英単語を読解はできても、正しくアウトプットできない…という人が少なくないからです。日本の英語教育は長い間読むことに重点を置いてきたため、書いたり話したりというアウトプットの段になると「どうやって使うんだっけ」と迷ってしまう人が多いようです。

たとえば、GSLにはdiscussやfineがありますが、discuss aboutという表現は正しいか、また、fineはどういう場合に「良い」という意味になって、どう使うと「細かい」となるか、と問われると答えにつまる人はけっこういるんですね。いくら難しい言葉をたくさん知っていても、基礎部分が弱くては会話もおぼつきません。GSL 2,000語は何せ、話し言葉の9割をカバーしているのですから。

本書は、GSL 2,000単語を網羅したリアルな会話例を通して、それぞれの単語の用法・感覚・適切な文脈を効果的に身につけてもらおう、と試みたものです。2,000語の内、最重要と思われる約150語は重点的に扱われていて、会話は「励ます」「反論する」「あいさつする」などの日常の様々なシーン別に分類されています。全ての会話には、日向さんによる、学習者のツボを心得た見事な解説がついています。日向さんとの前作「知られざる英会話のスキル20」でもそうでしたが、私はもっぱら会話作成の担当です。

会話作成は「リアルな感じ」を出し、読者に読み物としても「おもしろい」と感じてもらえるかどうかがカギです。今回の本の場合は、とにかく2,000単語を会話例の中で網羅しなければならなかったので、約4ヶ月間、常にGSLリストを傍らに置いて「どうやったら効率よく2,000語を消化できるか、どうやったら自然な会話ができるか」ばかり考えていました。

実は、2,000語を消化することはさほど大変ではなかったんです。苦労したのは、①それぞれの単語の用法や代表的なコロケーション(例えばthinkとdeeplyは組み合わせて使われることが多い、などの、単語同士の慣用的なつながり)をできるだけ多く効果的に盛り込むこと、②同じ単語を同じ会話の中に何度も登場させつつ、くどいと思わせないこと、でした。コロケーションの重要度や単語のニュアンスをきちんと把握するために、日々、何種類もの辞書を広げたまま作業しました。

実際の会話をひとつご紹介しますね。astonishという動詞に焦点をあてた会話です(この会話は最終的にボツとなったものですが、ボツになっただけあって「おもしろみ」に欠けます)。

A: You astonished me! Oh … um, how was Tokyo?(びっくりしたじゃない、おどかさないでよ。ああ、そうそう、東京、どうだった?)
B: Astonishing. I was astonished to see how much the city has changed. Honestly, it changes with astonishing speed. At the same time, I was really astonished by the way they maintain their tradition. And I was astonished that there are many Chinese there.(驚いたよ。街の様子があんなに変わったのには驚いたね。正直言って、驚くべき速さで変わり続けているよ。同時に、伝統を維持しているやり方にもえらく驚いたね。それに、大勢の中国人がいるのにも驚いたな。)

使用頻度の比較的低い astonish をここまで繰り返し使う人はいないと思いますが、この会話を読んで「そうか、不意に驚かされた時にYou astonished me.と使えるのか、be astonished toとしても使えるんだな」という感覚や、適切な文脈を身につけて下されば嬉しいです。

私は会話作成の仕事が大好きなのですが(子どもと一緒に critical thinking を考えるのと同じぐらい好きです)、会話ができ上がるといつも、何度か音読します。自分で読んでみて、その会話の光景が目の前にぱーっと浮かべば「よい会話」、浮かばなければ「今イチな会話」という基準が私の中にはあります。「よい会話」の場合、光景が浮かび過ぎて登場人物と一緒に涙したり怒ったりすることもあります…ヘンですね。

最後になりましたが、「知られざる基本英単語のルール」の初版の誤植を指摘して下さった方々、どうもありがとうございました。今回の刷ではきれいになっているはずです。注意深く読んで下さる読者の存在は、執筆者にとって本当にありがたいです。今後ともよろしくお願いいたします。

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