こんにちは。「子どものためのCritical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。
私は著書や連載などでも、英語の会話例を作る仕事が多いのですが、編集者の方に時々言われるのが「狩野さんの原稿、『…』が多過ぎるんですよね」。「…」が多いと、見た目的にあまりよろしくない、ということらしいです。たしかに世にある会話本の多くは「…」が含まれていません。でも、臨場感を出すためには「…」は不可欠なんです。
なぜかというと…私たちは、たとえ母国語であっても、いつも立て板に水のように話しているわけではないんです。皆たいていは「えっと」「えー」「そのぉ」など、色々な「接ぎ穂」を使って文と文、単語と単語の間を補っているのです。そして、リアルな会話をそのまま書きおこしたら、「…」のオンパレードになるぐらい、けっこう言いよどんでいるはずなんです。さらに言うと、間違った文法で話すことも決して少なくないですよね。
英語も同じです。実際に交わされたリアル会話を書きおこしたものを読んでみると、「…」がけっこう多いですし、皆平気で(?)言いよどんでいます。ついでに言うと、文法もけっこう間違えて話しています。アメリカ女性などは立て板に水式に話しているようなイメージがありますが、彼女たちの会話をよく聞いてみると、well(えっと、まぁ)um(えっと、その)let’s see(そうねぇ)what’s the word(何て言うんだっけ、言葉が思いつかない)を「…」と共にここそこにちりばめています。
日本では、スラスラペラペラと話せること=英語ができる、という図式が少なからずあるように思えます。また、話すからには完璧な英文じゃないといけない、と思い込んでいる人も少なくないようです。でも、これは自分の経験からも言えることですが、いたずらにペラペラしゃべる人よりも、ポツポツとでもいいから深みのある内容を話す人の方が外国人はきちんと聞いてくれるようです(先日このサイトでご紹介した塩野七生さんの著書でもそう指摘されています)。
外国語なのですから、ペラペラ話せるようになるにはかなりの年季が要ります。もしかしたら、一生「ペラペラ」の域に達せないかもしれません。まず私たちが目指すべきは、「ペラペラ」よりも「深みのある内容」を話すことだと思います。深みのある内容を話すためには、普段から自分の頭で考える癖をつけることが大事ですよね(critical thinking は役に立ちますよ)。
ネイティブだって言いよどむのですから、私たちも自信をもって言いよどめばいいのです。日向清人さんとの共著「知られざる英会話のスキル 20」でも強調したことですが、「言葉でわかりあう型」のコミュニケーションで成り立っている英語社会では、会話は当事者同士が協力して作り上げる、という感覚があります。こちらが言葉が足りなければ相手が補ってくれる、言いよどめば助け舟を出してくれる。自分一人で完璧なものを目指そうとする必要はないんです。
最後にひとつ、注意事項を:言いよどむ時は、沈黙するのではなく、上にも書いたような well/um/let’s see などをフル活用して、沈黙の間を埋めて下さいね。100% 沈黙してしまうと、「もう話すつもりはありません」という意思表示と受けとられかねませんから。