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藤原和博さんに学ぶ、critical thinking

こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

リクルートの社員を経て、東京の公立中学校校長となった藤原和博さんについてはご存知の方も多いと思います。彼が発足させた「よのなか科」や「夜スペ」には色々な意見があるかもしれませんが、「正解」ばかりを追求する日本の教育はおかしい、という彼の批判には耳を傾けるべきものがあると思います。

先日、藤原さんが小中学生向けに書いたという「キミが勉強する理由」という本を読みました(ご紹介くださった方、どうもありがとうございます)。その中で藤原さんは、勉強に必要なのは「集中力」と「バランス感覚」であり、この2つは一生懸命遊ぶことによって磨かれるものだ、と書いています。さらに、勉強をラクに楽しくするためには、先生のキャラをつかんで試験のヤマをはれ、と説いています。先生になりきって、自分が先生ならどんな問題を出すか考えてみよう、と言うのです。

この「先生になりきって考える」という作業、実は、 critical thinking のためのとてもいい訓練になるんです。

この意見は正しいのか、この主張や情報はもっともなのか、もっと良い考え方や選択肢はないのか—を考えるのが critical thinking です。ところが、「もっと良い選択肢」というものは普通、パッと思いつくものではないんですね。日頃から、なるべくたくさんの選択肢や可能性を考えるクセをつけておいた方が「もっと良い選択肢」に到達しやすいんです。さらには、自分の先入観や立場にとらわれると「なるべくたくさんの選択肢」にも限界が生じてしまいますから、「自分以外の立場にいる人はどう考えるのだろう」と想像をめぐらせる訓練も必要です。

私の授業ではよく、学生を男女別のグループに分けて、それぞれに男女のけんかのシナリオを書かせます。女子には、女子のセリフだけが書かれたシナリオを渡して、男子の気持ちになって男子のセリフを書いてもらい、男子には、男子のセリフだけが書かれたものを渡して女子のセリフを書いてもらうのです。毎回なかなかおもしろいものが出来上がってきますよ。自分と違う性別の人間がどんな思いでけんかをしているのか、あれこれセリフを考えるだけで、自分の立場や先入観にとらわれないための訓練、つまり、色々な可能性を考えるための訓練ができるのです。

藤原さんが推奨している「先生になりきれ」というのは、しかし、私が授業で訓練させてるようなバーチャルな設定ではなく、かなり切実なものです。小中学生にとって、試験でいい点をとる、というのはある意味人生の一大事だと思います。人生の一大事がかかっているからこそ、先生になりきって、生徒である自分が普段は考えないようなことも一生懸命考えられる…のだと思うのです。ヤマをはる、という表現にはマイナスなイメージもつきまとうかもしれませんが、あてずっぽうではなく、あくまでも先生になりきった上でヤマをはれる子どもは、critical thinking 力の大事な基礎を身につけることができるかもしれません。

ちなみに、上でご紹介した「男女のけんかシナリオ」ですが、このシナリオ作りは自分ひとりでもできるので、お時間とご興味のある方はやってみて下さい(注:自分とは違う性別のセリフを考える、というのがポイントです)。「男女のけんか」以外にも「親子のおこづかいをめぐる交渉会話」「夫婦の家事当番をめぐる会話」「上司と部下の、仕事の出来に関する会話」「医者と患者の、病気の症状や治療にまつわる会話」「宇宙人と自分の会話」など、とにかく自分が普段置かれている立場とは逆のセリフを実際に文字にして書いてみて下さい。意外な発見があった…という方は、是非こちらまでご一報下さると嬉しいです。

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「結論は先」続編:本題も先?

こんにちは。「子どものための Critical Thinking Project」を主宰しています、狩野みきです。

ひとつ前の記事「英会話のルール:結論は先、背景は後」にはたくさんの反響をいただきました。どうもありがとうございます。皆さまのコメントはブログを続けていく上での大きな励みでもあり、また、貴重な刺激でもあります。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

<結論→背景>という順序で話をすると、話の先が見えやすくなる、という話を前回の記事で書きました。結論を先に言うことによって「この話はどこに行き着くのか」という不要なストレスを相手に与えない、ということですね(あくまでも英語文化における話ですが)。

英語には、話の先を見えやすくしてあげる表現がたくさんあります。that reminds me (それで思い出したけど)、sorry to change the subject(話題を変えて悪いんだけど)before I forget(忘れる前に言っておくね)などの前置き表現、そして、I have three points to make.(要点は3つあります)といった予告的な表現など。このような表現を聞けば、「ああ、これからこの人は○○な話をするのか」という具合に、相手は話の方向性が見えるわけです。ちなみに、日本語にも同様の表現はありますが、英語ほどは頻繁に使われていないように思います(この辺りにも、「あ・うん型」と「言葉でわかり合う型」のコミュニケーション・スタイルの違いを感じます)。

相手のストレスをなるべく減らすように話す、ということをつきつめていくと、私はいつも「はたして本題にすぐ入ることが相手のストレス軽減につながるのか」ということを考えます。相手の時間を無駄に使わない=相手にストレスを与えない、という前提のもとに、いきなりすぱっと本題に入るべきかどうか。ケースバイケースと言ってしまえばそれまでですが、悩むところです(ちなみにケースバイケースという言葉は和製英語ではなく、れっきとした英語です)。

結論を先に言うことを好む英語文化でも、この点については意見が分かれるようです。アメリカにおける職場のコミュニケーション・スタイルをリサーチした社会言語学の研究結果によると、男性はさっさと本題に入ってもらうことを好む人が多く、女性はすぐに本題に入らない方が居心地がよいと思う人が多いそうです。だからといって、男性のペースに合わせようとして(あるいはその他の理由で)女性がすぱっと本題に入ると「あの人は女性らしくない」と陰口(?)をたたかれることもあるというのですから、アメリカ人もたいへんです。

相手にストレスを与えない話し方とはすなわち、相手がスルッと理解できるような話し方だと思います。相手にスルッと理解してもらうためには、相手の立場を十分に考える必要があります(ある程度想像力の勝負なので限界はあると思いますが)。実はこの、相手の立場を十分に考える、というのは critical thinking と密接につながっていくんです。どうつながっているか…は、また別の機会に書きたいと思います。

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